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トレーニングとは「ストレスへの適応」

■ トレーニング=身体への“ストレス実験”

私たちは「筋トレ」「走り込み」などを“鍛える”と表現しますが、生理学的にはすべて身体にストレスを与える行為です。この「ストレスへの反応」を最初に体系化したのが、生理学者ハンス・セリエ(Hans Selye, 1936)。彼の提唱した汎適応症候群(General Adaptation Syndrome:GAS)は、現在のトレーニング理論の礎になっています。

セリエによれば、生体は外的刺激(ストレス)に対して4段階の反応を示します。


■ ストレス学説の4段階反応

① ショック期(Shock Phase)

ストレスを受けた直後の一時的な混乱状態。体温や血圧が一時的に低下し、筋出力も下がる。トレーニングで言えば「初回の強い刺激に身体が驚いている」段階です。


② 抵抗反応期(Countershock Phase)

ショックから立ち直るように、身体がストレスに抵抗する準備を始める時期。交感神経が活性化し、アドレナリン・コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌され、代謝活動が急上昇。


③ 抵抗期(Resistance Phase)

身体がストレスに適応する段階。筋力・心肺機能・神経系などが「前回の負荷」に備えて強くなる。これがいわゆる超回復(supercompensation)です。➡ ここで適切な栄養と休養を取れば、次のトレーニングでパフォーマンスが向上。


④ 疲憊期(Exhaustion Phase)

ストレス(負荷)や頻度が過剰で、回復が追いつかない状態。免疫力低下、ホルモン分泌の乱れ、パフォーマンス低下、やる気喪失などが見られる。「オーバートレーニング症候群」と呼ばれる慢性疲労状態。


■ 「オーバーリーチ」と「オーバーワーク」

区分

内容

結果

オーバーリーチ

一時的に強い負荷をかける

十分に休養すれば、適応が進み“伸びる”

オーバーワーク

回復前に負荷を重ねる

慢性的な疲労・低下・モチベ喪失

「オーバーリーチなくして成長なし」。トレーニングの真髄は「ストレスを完全に避けること」ではなく、「管理できる範囲で負荷をかけること」にあります。


■ トレーニング周期(ピリオダイゼーション)への応用

このGASモデルは、現代のピリオダイゼーション理論の基礎となっています。「強い負荷 → 回復 → 適応 → 再負荷」という波を設計的に繰り返すことで、長期的な成長を実現します。

学生アスリートや社会人トレーニーにとって大切なのは、「疲れるまでやる」ではなく、「回復して強くなる」という視点。

そのためには、トレーニング日誌で疲労度を記録し、休息日を意識的に設けることが重要です。


■ まとめ

  • トレーニングは「ストレス刺激→回復→適応→疲弊」のサイクル。

  • ショック期を経て、抵抗期で強くなる。

  • オーバーリーチは必要な刺激だが、放置するとオーバーワークになる。

  • 成長の鍵は「どれだけ頑張るか」ではなく、「どれだけ回復できるか」。


📚主な参考文献

  1. Selye, H. (1950). The Physiology and Pathology of Exposure to Stress. Acta, Inc.

  2. Smith, D. J. (2003). A framework for understanding the training process leading to elite performance. Sports Medicine, 33(15), 1103–1126.

  3. Meeusen, R. et al. (2010). Prevention, diagnosis, and treatment of the overtraining syndrome. Clinical Journal of Sport Medicine, 20(5), 326–331.

  4. Fry, R. W., Morton, A. R., & Keast, D. (1991). Overtraining in athletes: An update. Sports Medicine, 12(1), 32–65.


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