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胸郭ずらし ― 体幹の分離動作

■ 胸郭ずらしとは?

「胸郭ずらし」とは、骨盤に対して胸郭を相対的にずらす(分離して動かす)動きを指します。特に野球やゴルフ、テニスなどの回旋スポーツで重要とされ、胸郭(胸椎・肋骨・肩甲帯)と骨盤の協調的分離が、パワー伝達と再現性の高い動作を生み出します。

「腰は残して、胸を切る」「骨盤を先行させて、胸郭を遅らせる」といったコーチングキューが、胸郭ずらしの表現として用いられます。


■ 胸郭ずらしの役割

  1. 回旋パワーの蓄積と解放

    骨盤と胸郭の相対的なねじれ(Xファクター)を生むことで、筋・筋膜ラインに張力を作り、エネルギーを蓄える。投球・打撃・スイングの「切り返し」の鋭さにつながる。

  2. 動作の安定性向上

    胸郭が骨盤と一体化して動いてしまうと、上肢主導になり、手打ち・腕投げになりやすい。胸郭ずらしにより、下半身主導の運動連鎖が成立。

  3. 呼吸・体幹機能の向上

    胸郭の可動性は呼吸筋(横隔膜・肋間筋)の働きにも関係。ずらし動作を通して、胸郭を「締める」「開く」呼吸コントロールが洗練される。


■ 胸郭ずらしを阻害する要因

  • 胸椎の伸展・回旋制限(猫背・肋骨の硬さ)

  • 腹斜筋群の筋出力バランス不良

  • 骨盤の前傾過多/後傾固定

  • 上肢の過剰使用による代償運動

これらの要因があると、骨盤と胸郭が一体化し、“ずらし”が出ない。結果として「切り返しが遅い」「スイングが小さい」といった動作エラーにつながります。


■ トレーニングアプローチ例

  1. 90/90ポジション・ローテーション呼吸

    → 胸郭と骨盤を分離させた状態での呼吸コントロール。

  2. ケーブル・パロフプレス with ローテーション

    → 胸郭と骨盤のねじれを意識した抗回旋・回旋トレーニング。

  3. メディシンボール・ローテーショントス

    → ダイナミックに胸郭の分離を使って力を伝える動作練習。


■ 野球選手にとっての意義

野球では、投手の「タメ」や打者の「間」を作る動きに胸郭ずらしが不可欠。骨盤が開く前に胸郭を遅らせることで、下半身→体幹→上肢の動作連鎖が完成し、リリースやインパクトの再現性が高まります。


■ まとめ

  • 胸郭ずらし=骨盤と胸郭の“分離運動”。

  • パワー伝達・安定性・呼吸制御に直結する重要スキル。

  • 固さを取るだけでなく、「意図的にずらす」運動制御トレーニングが鍵。


📚 参考文献

  • Kibler, W. B., & Sciascia, A. (2016). Kinetic Chain Contributions to the Overhead Athletic Motion. Sports Health, 8(4), 349–356.

  • Myers, T. W. (2014). Anatomy Trains: Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists. Elsevier.

  • Sakai, Y. et al. (2020). Relationship between thoracic rotation and throwing performance in baseball players. J Phys Ther Sci, 32(5), 332–337.


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