胸郭ずらし ― 体幹の分離動作
- 青柳貴宏

- 10月16日
- 読了時間: 2分
■ 胸郭ずらしとは?
「胸郭ずらし」とは、骨盤に対して胸郭を相対的にずらす(分離して動かす)動きを指します。特に野球やゴルフ、テニスなどの回旋スポーツで重要とされ、胸郭(胸椎・肋骨・肩甲帯)と骨盤の協調的分離が、パワー伝達と再現性の高い動作を生み出します。
「腰は残して、胸を切る」「骨盤を先行させて、胸郭を遅らせる」といったコーチングキューが、胸郭ずらしの表現として用いられます。
■ 胸郭ずらしの役割
回旋パワーの蓄積と解放
骨盤と胸郭の相対的なねじれ(Xファクター)を生むことで、筋・筋膜ラインに張力を作り、エネルギーを蓄える。投球・打撃・スイングの「切り返し」の鋭さにつながる。
動作の安定性向上
胸郭が骨盤と一体化して動いてしまうと、上肢主導になり、手打ち・腕投げになりやすい。胸郭ずらしにより、下半身主導の運動連鎖が成立。
呼吸・体幹機能の向上
胸郭の可動性は呼吸筋(横隔膜・肋間筋)の働きにも関係。ずらし動作を通して、胸郭を「締める」「開く」呼吸コントロールが洗練される。
■ 胸郭ずらしを阻害する要因
胸椎の伸展・回旋制限(猫背・肋骨の硬さ)
腹斜筋群の筋出力バランス不良
骨盤の前傾過多/後傾固定
上肢の過剰使用による代償運動
これらの要因があると、骨盤と胸郭が一体化し、“ずらし”が出ない。結果として「切り返しが遅い」「スイングが小さい」といった動作エラーにつながります。
■ トレーニングアプローチ例
90/90ポジション・ローテーション呼吸
→ 胸郭と骨盤を分離させた状態での呼吸コントロール。
ケーブル・パロフプレス with ローテーション
→ 胸郭と骨盤のねじれを意識した抗回旋・回旋トレーニング。
メディシンボール・ローテーショントス
→ ダイナミックに胸郭の分離を使って力を伝える動作練習。
■ 野球選手にとっての意義
野球では、投手の「タメ」や打者の「間」を作る動きに胸郭ずらしが不可欠。骨盤が開く前に胸郭を遅らせることで、下半身→体幹→上肢の動作連鎖が完成し、リリースやインパクトの再現性が高まります。
■ まとめ
胸郭ずらし=骨盤と胸郭の“分離運動”。
パワー伝達・安定性・呼吸制御に直結する重要スキル。
固さを取るだけでなく、「意図的にずらす」運動制御トレーニングが鍵。
📚 参考文献
Kibler, W. B., & Sciascia, A. (2016). Kinetic Chain Contributions to the Overhead Athletic Motion. Sports Health, 8(4), 349–356.
Myers, T. W. (2014). Anatomy Trains: Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists. Elsevier.
Sakai, Y. et al. (2020). Relationship between thoracic rotation and throwing performance in baseball players. J Phys Ther Sci, 32(5), 332–337.





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