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野球


背中側への過度な芯落下が招くアウトイン軌道
「芯を落とす」「ヘッドを下げる」「芯落下」などの言葉がSNSなどで広く使われています。確かにトップ選手のスイングをスローで見ると、一瞬バットの芯が落ちるように見えるのですが、意識的に背中側へ落とすのは誤りと言ってもいいのではと考えます。 今回は背中側への過剰な芯落下のデメリットと望ましい芯の落下について整理します。 ■ 背中側への芯落下が起こす動作とその問題点 トップからスイングに入る際、ヘッドを自分の背中側へ大きく倒すように落とす誤った意図的な芯落下は、次のような現象を引き起こします。 バットヘッドが身体の回転軸から遠ざかる → 回転半径が大きくなり(回転軸からヘッドが遠く離れる)、遠心力が強く働く。 体幹の回転に対してヘッドが外回りする → 内から出せず、スイングは外→内の「アウトイン軌道、ドアスイング」に。 打球初速が上がらない → 力のベクトルが投手方向に伝わらない。 特に芯落下での「バットヘッドを早く下げる」意識は、打ち出し角のコントロールを失い、スイング軌道のトンネルを消す結果にもなります。 ■ 芯落下が起こるメカニズム...

青柳貴宏
11月13日読了時間: 3分


フォームを固めるという考え方について - 野球の打撃動作と“動作の多様性”
■ 「フォームを固める」という考え方 多くの選手や指導者は「フォームを固める」ことを理想と考えます。確かに、反復練習によって安定した再現性を得ることは重要です。しかし、常にフォームを固めるべきだという考えには落とし穴があるように思います。それは「 状況に適応する力(可変性) 」を失うリスクがあるからです。 ■ 人の動きは「繰返しのない繰返し」 人間の運動は、機械のように同じ動きを再現しているわけではありません。 たとえ熟練した選手でも、スイングの軌道やタイミングは毎回わずかに異なる。 むしろ、その 小さなズレ(変動性)こそが“適応力” であり、これは「動作多様性(Movement Variability)」と呼ばれています。 この考え方は「システム論的運動制御(Dynamic Systems Theory)」に基づき、動作を「固定化すべきフォーム」ではなく、環境と身体と課題の相互作用から生まれる自己組織化(self-organization)として捉えます。 ■ アトラクターとフラクチュエイター この理論の鍵が、アトラクター(Attractor)

青柳貴宏
11月10日読了時間: 3分


「速さ」と「早さ」──現代野球に求められるスイング
近年の野球では、投手の平均球速が年々上昇し、打者はより短い時間でボールを見極め、反応しなければならなくなっています。 この環境の変化の中で、打撃動作における「速さ」と「早さ」を理解してスイングを作っていくことは、育成年代を含むすべての打者にとって重要なテーマになるのではないかと感じています。 ■ 「速さ」と「早さ」の違い 日本語の「速さ(はやさ)」と「早さ(はやさ)」は似ていますが、意味は異なります。 言葉 英語 意味 速さ speed / velocity 動作そのもののスピード。物理的な速さ。 早さ quickness / promptness タイミングや反応の速さ。行動の早さ。 バッティングで言えば、 「速さ」=スイングスピード(バットスピード) 「早さ」=スイングを開始してからインパクトに至るまでの“立ち上がり速度(クイックネス)” どちらも大切ですが、現代野球では「早さ=クイックネス」こそが勝負を分ける能力であると考えられます。 ■ 球速上昇がもたらした「判断時間の短縮」 投手の平均球速はここ20年で顕著に上がり、 MLBでは平均9

青柳貴宏
11月6日読了時間: 3分


弾性要素と収縮要素
■筋肉の力は「二つの要素」で生まれる 筋肉が力を発揮するとき、その内部では 収縮要素(Contractile Element:CE) 弾性要素(Elastic Components:SEC・PEC) という二つの仕組みが協調して働いています。 ◉収縮要素(Contractile Element) 筋原線維(アクチンとミオシン)の滑走によるいわゆる筋収縮そのもの。神経刺激によってカルシウムが放出され、アクチンとミオシンが結合して力を生み出す。主にコンセントリック収縮で強く働きます。 ◉弾性要素(Elastic Components) 筋腱複合体に含まれる弾性組織。 SEC(Series Elastic Component) :筋繊維と直列に存在(腱・筋節の弾性部分) PEC(Parallel Elastic Component) :筋膜や結合組織など、筋繊維と並行に存在これらは「ゴム」のように伸び縮みし、一時的にエネルギーを貯蔵して解放することで力を増幅します。 ■弾性要素の寄与はどのくらい大きいのか? 実際の運動では、 収縮要素よりも弾性要素が多

青柳貴宏
10月17日読了時間: 3分


胸郭ずらし ― 体幹の分離動作
■ 胸郭ずらしとは? 「胸郭ずらし」とは、 骨盤に対して胸郭を相対的にずらす(分離して動かす)動き を指します。特に野球やゴルフ、テニスなどの回旋スポーツで重要とされ、 胸郭(胸椎・肋骨・肩甲帯)と骨盤の協調的分離 が、パワー伝達と再現性の高い動作を生み出します。 「腰は残して、胸を切る」「骨盤を先行させて、胸郭を遅らせる」といったコーチングキューが、胸郭ずらしの表現として用いられます。 ■ 胸郭ずらしの役割 回旋パワーの蓄積と解放 骨盤と胸郭の相対的なねじれ(Xファクター)を生むことで、筋・筋膜ラインに張力を作り、エネルギーを蓄える。投球・打撃・スイングの「切り返し」の鋭さにつながる。 動作の安定性向上 胸郭が骨盤と一体化して動いてしまうと、上肢主導になり、手打ち・腕投げになりやすい。胸郭ずらしにより、下半身主導の運動連鎖が成立。 呼吸・体幹機能の向上 胸郭の可動性は呼吸筋(横隔膜・肋間筋)の働きにも関係。ずらし動作を通して、胸郭を「締める」「開く」呼吸コントロールが洗練される。 ■ 胸郭ずらしを阻害する要因 胸椎の伸展・回旋制限(猫背・肋骨の

青柳貴宏
10月16日読了時間: 2分


デプスジャンプとドロップジャンプの違い
ジャンプトレーニングの代表格として知られる「デプスジャンプ」と「ドロップジャンプ」。どちらも「高い位置から降りてすぐ跳ぶ」動作に見え混同してしまいそうですが、実は目的も効果もまったく違うトレーニングです。今回は、この2つの違いと、野球などの競技動作への応用について解説します...

青柳貴宏
10月10日読了時間: 3分


オーバーカミング・アイソメトリックスとは?
■ 定義 オーバーカミング・アイソメトリックス とは、「動かせない対象に対して“全力で押す/引く”ような形で行う等尺性収縮(アイソメトリック)」の一種です。 例: 壁を全力で押す パワーラックのセーフティバーを全力で引き上げる 地面に固定したチェーンやベルトを引っ張る...

青柳貴宏
10月2日読了時間: 4分


「ローテーション」と「アンチローテーション」
野球のバットスイングは、全身の力を効率的にボールへ伝える高度な運動です。その中心にあるのが「ローテーション(回旋)」と、それに拮抗する「アンチローテーション(抗回旋)」です。どちらも一流打者のスイングに欠かせない要素ですが、混同されやすいため整理してみましょう。...

青柳貴宏
9月21日読了時間: 3分


徐脂肪指数(FFMI)とは? アスリートが注目すべき理由と高め方
■ 徐脂肪指数(FFMI)とは? Fat-Free Mass Index(FFMI) の日本語訳で、「徐脂肪体重(=筋肉・骨・水分など脂肪以外の体重)」を身長で割って算出した指標。 計算式 FFMI=徐脂肪体重 (kg)÷身長 (m)² 👉...

青柳貴宏
8月27日読了時間: 3分


10月〜3月:中3生トレーニングプログラム(野球)
中学3年生にとって夏の部活動やクラブチームの引退は大きな節目となります。 その後は部活動がなくなり受験勉強が中心となり、どうしても運動量が減ってしまいがちです。高校で部活を本格的に行いたいと思っている人にとっては、この半年間の過ごし方は重要で、試合などパフォーマンスが求めら...

青柳貴宏
8月25日読了時間: 3分


球速を決める要因と、科学的根拠にもとづくトレーニング設計
1) 身体の使い方 球速に影響する大きな要因は 下半身から体幹、上肢への運動連鎖(キネティックチェーン) にあります。 ヒップ・ショルダーセパレーション(骨盤―胸郭の捻れ) 前脚着地時の骨盤と胸郭の分離が大きいほど体幹回旋速度が高く、結果として球速に好影響を与えることが示さ...

青柳貴宏
8月21日読了時間: 5分
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