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背中側への過度な芯落下が招くアウトイン軌道
「芯を落とす」「ヘッドを下げる」「芯落下」などの言葉がSNSなどで広く使われています。確かにトップ選手のスイングをスローで見ると、一瞬バットの芯が落ちるように見えるのですが、意識的に背中側へ落とすのは誤りと言ってもいいのではと考えます。 今回は背中側への過剰な芯落下のデメリットと望ましい芯の落下について整理します。 ■ 背中側への芯落下が起こす動作とその問題点 トップからスイングに入る際、ヘッドを自分の背中側へ大きく倒すように落とす誤った意図的な芯落下は、次のような現象を引き起こします。 バットヘッドが身体の回転軸から遠ざかる → 回転半径が大きくなり(回転軸からヘッドが遠く離れる)、遠心力が強く働く。 体幹の回転に対してヘッドが外回りする → 内から出せず、スイングは外→内の「アウトイン軌道、ドアスイング」に。 打球初速が上がらない → 力のベクトルが投手方向に伝わらない。 特に芯落下での「バットヘッドを早く下げる」意識は、打ち出し角のコントロールを失い、スイング軌道のトンネルを消す結果にもなります。 ■ 芯落下が起こるメカニズム...

青柳貴宏
5 日前読了時間: 3分


フォームを固めるという考え方について - 野球の打撃動作と“動作の多様性”
■ 「フォームを固める」という考え方 多くの選手や指導者は「フォームを固める」ことを理想と考えます。確かに、反復練習によって安定した再現性を得ることは重要です。しかし、常にフォームを固めるべきだという考えには落とし穴があるように思います。それは「 状況に適応する力(可変性) 」を失うリスクがあるからです。 ■ 人の動きは「繰返しのない繰返し」 人間の運動は、機械のように同じ動きを再現しているわけではありません。 たとえ熟練した選手でも、スイングの軌道やタイミングは毎回わずかに異なる。 むしろ、その 小さなズレ(変動性)こそが“適応力” であり、これは「動作多様性(Movement Variability)」と呼ばれています。 この考え方は「システム論的運動制御(Dynamic Systems Theory)」に基づき、動作を「固定化すべきフォーム」ではなく、環境と身体と課題の相互作用から生まれる自己組織化(self-organization)として捉えます。 ■ アトラクターとフラクチュエイター この理論の鍵が、アトラクター(Attractor)

青柳貴宏
11月10日読了時間: 3分


「速さ」と「早さ」──現代野球に求められるスイング
近年の野球では、投手の平均球速が年々上昇し、打者はより短い時間でボールを見極め、反応しなければならなくなっています。 この環境の変化の中で、打撃動作における「速さ」と「早さ」を理解してスイングを作っていくことは、育成年代を含むすべての打者にとって重要なテーマになるのではないかと感じています。 ■ 「速さ」と「早さ」の違い 日本語の「速さ(はやさ)」と「早さ(はやさ)」は似ていますが、意味は異なります。 言葉 英語 意味 速さ speed / velocity 動作そのもののスピード。物理的な速さ。 早さ quickness / promptness タイミングや反応の速さ。行動の早さ。 バッティングで言えば、 「速さ」=スイングスピード(バットスピード) 「早さ」=スイングを開始してからインパクトに至るまでの“立ち上がり速度(クイックネス)” どちらも大切ですが、現代野球では「早さ=クイックネス」こそが勝負を分ける能力であると考えられます。 ■ 球速上昇がもたらした「判断時間の短縮」 投手の平均球速はここ20年で顕著に上がり、 MLBでは平均9

青柳貴宏
11月6日読了時間: 3分


VBT ー Velocity Based Training:速度基準トレーニング
■ "重量"ではなく“挙上スピード”を基準に VBT(Velocity Based Training)とは、挙上速度(バーの動く速さ)を基準にトレーニングを管理する方法です。従来の「1RMの○%」による設定と異なり、その日のコンディション(疲労や神経系の状態)を反映できるため、競技アスリートを中心に注目が高まっています。 ■ 速度と力の関係 筋力発揮は「力‐速度曲線(Force–Velocity Curve)」で説明されます。 高負荷では速度が遅く、低負荷では速度が速くなるという物理法則的関係に基づき、 挙上速度を測定して、実際の負荷強度(%1RM)を推定 します。(Gonzalez-Badillo & Sánchez-Medina, 2010) ■ 速度ゾーン別トレーニングの目安 目的 平均速度(m/s) 負荷目安(%1RM) 代表的種目例 最大パワー 0.75〜1.0 約40〜60% クリーン、スナッチ、ジャンプスクワット 筋肥大 0.45〜0.75 約60〜80% ベンチプレス、スクワット 筋力向上 0.3〜0.45 約80〜90% ベンチ

青柳貴宏
10月20日読了時間: 2分


弾性要素と収縮要素
■筋肉の力は「二つの要素」で生まれる 筋肉が力を発揮するとき、その内部では 収縮要素(Contractile Element:CE) 弾性要素(Elastic Components:SEC・PEC) という二つの仕組みが協調して働いています。 ◉収縮要素(Contractile Element) 筋原線維(アクチンとミオシン)の滑走によるいわゆる筋収縮そのもの。神経刺激によってカルシウムが放出され、アクチンとミオシンが結合して力を生み出す。主にコンセントリック収縮で強く働きます。 ◉弾性要素(Elastic Components) 筋腱複合体に含まれる弾性組織。 SEC(Series Elastic Component) :筋繊維と直列に存在(腱・筋節の弾性部分) PEC(Parallel Elastic Component) :筋膜や結合組織など、筋繊維と並行に存在これらは「ゴム」のように伸び縮みし、一時的にエネルギーを貯蔵して解放することで力を増幅します。 ■弾性要素の寄与はどのくらい大きいのか? 実際の運動では、 収縮要素よりも弾性要素が多

青柳貴宏
10月17日読了時間: 3分


胸郭ずらし ― 体幹の分離動作
■ 胸郭ずらしとは? 「胸郭ずらし」とは、 骨盤に対して胸郭を相対的にずらす(分離して動かす)動き を指します。特に野球やゴルフ、テニスなどの回旋スポーツで重要とされ、 胸郭(胸椎・肋骨・肩甲帯)と骨盤の協調的分離 が、パワー伝達と再現性の高い動作を生み出します。 「腰は残して、胸を切る」「骨盤を先行させて、胸郭を遅らせる」といったコーチングキューが、胸郭ずらしの表現として用いられます。 ■ 胸郭ずらしの役割 回旋パワーの蓄積と解放 骨盤と胸郭の相対的なねじれ(Xファクター)を生むことで、筋・筋膜ラインに張力を作り、エネルギーを蓄える。投球・打撃・スイングの「切り返し」の鋭さにつながる。 動作の安定性向上 胸郭が骨盤と一体化して動いてしまうと、上肢主導になり、手打ち・腕投げになりやすい。胸郭ずらしにより、下半身主導の運動連鎖が成立。 呼吸・体幹機能の向上 胸郭の可動性は呼吸筋(横隔膜・肋間筋)の働きにも関係。ずらし動作を通して、胸郭を「締める」「開く」呼吸コントロールが洗練される。 ■ 胸郭ずらしを阻害する要因 胸椎の伸展・回旋制限(猫背・肋骨の

青柳貴宏
10月16日読了時間: 2分


爆発的パフォーマンスを生む鍵 ―予備緊張・マッスルスラック・RFD・RSIの関係―
■力は「出す前」から始まっている どんなスポーツ動作も、実際に動き出す前からすでに“勝負”は始まっています。投球、ジャンプ、スプリント、スイングなどのすべての爆発的な動作は、力を生み出す準備段階で結果が決まります。 この準備段階を理解するキーワードが、 予備緊張(Pre-tension) 、 マッスルスラック(Muscle Slack) 、そしてそれによって生まれる RFD(Rate of Force Development) と RSI(Reactive Strength Index) です。 ■マッスルスラック:力を出す前に存在する“たるみ” 「マッスルスラック」とは、 筋肉や腱に存在する“たるみ”や“遊び” のこと。 輪ゴムを弾く前に少し緩んでいると、引っ張り始めてから反応が遅れるのと同じで、筋肉もたるんでいる状態では力がすぐに伝わりません。 この「たるみ」を減らすことが、力発揮の速さ動作の効率を高めます。 ■予備緊張:たるみを消す“張りの準備” 予備緊張とは、 動作前に筋肉を軽く緊張させておくこと 。これによってマッスルスラックを消し、筋

青柳貴宏
10月16日読了時間: 3分


トレーニングとは「ストレスへの適応」
■ トレーニング=身体への“ストレス実験” 私たちは「筋トレ」「走り込み」などを“鍛える”と表現しますが、生理学的にはすべて 身体にストレスを与える行為 です。この「ストレスへの反応」を最初に体系化したのが、生理学者ハンス・セリエ(Hans Selye,...

青柳貴宏
10月11日読了時間: 3分


デプスジャンプとドロップジャンプの違い
ジャンプトレーニングの代表格として知られる「デプスジャンプ」と「ドロップジャンプ」。どちらも「高い位置から降りてすぐ跳ぶ」動作に見え混同してしまいそうですが、実は目的も効果もまったく違うトレーニングです。今回は、この2つの違いと、野球などの競技動作への応用について解説します...

青柳貴宏
10月10日読了時間: 3分


動作の「減速」を制御する
■ 減速とは何か? 走る、跳ぶ、切り返す――あらゆるスポーツ動作には「加速」と同じくらい「減速」が存在します。 減速とは、 スピードや勢いをコントロールして止める、あるいは方向を変える局面 のこと。 ここで身体を上手にコントロールできるかどうかが、ケガを防ぐ、次の動作へスム...

青柳貴宏
10月10日読了時間: 2分


オーバーカミング・アイソメトリックスとは?
■ 定義 オーバーカミング・アイソメトリックス とは、「動かせない対象に対して“全力で押す/引く”ような形で行う等尺性収縮(アイソメトリック)」の一種です。 例: 壁を全力で押す パワーラックのセーフティバーを全力で引き上げる 地面に固定したチェーンやベルトを引っ張る...

青柳貴宏
10月2日読了時間: 4分


筋肉をつければ痩せる? ― 基礎代謝と脂肪燃焼の誤解
■ よくある誤解 「筋肉を増やせば基礎代謝が上がって自然に痩せる」これはフィットネス界隈でも頻繁に耳にするフレーズです。しかし科学的に見れば、この考えは 半分正解で半分間違い 。正しく理解しないと、期待外れの結果になりかねません。 ■ 筋肉が消費するエネルギーは意外と少ない...

青柳貴宏
9月26日読了時間: 2分


オーバーワークとは何か?
■ オーバーワークの定義 トレーニングにおいて「頑張りすぎ」は必ずしも成果につながりません。オーバーワーク(overwork)とは、 運動量・強度・頻度が体の回復力を超えてしまい、パフォーマンス低下や慢性的な疲労を招く状態 を指します。...

青柳貴宏
9月22日読了時間: 3分


腹部の部分痩せはできるのか?
■「腹筋だけでお腹は凹む?」の誤解 「お腹を引き締めたいから腹筋運動を頑張る」という方は多いですが、実はこれは科学的には 効果が限定的 です。研究では、6週間腹筋運動を続けても腹部脂肪はほとんど減らず、 向上したのは筋持久力だけ という結果が出ています(Vispute et...

青柳貴宏
9月21日読了時間: 2分


「ローテーション」と「アンチローテーション」
野球のバットスイングは、全身の力を効率的にボールへ伝える高度な運動です。その中心にあるのが「ローテーション(回旋)」と、それに拮抗する「アンチローテーション(抗回旋)」です。どちらも一流打者のスイングに欠かせない要素ですが、混同されやすいため整理してみましょう。...

青柳貴宏
9月21日読了時間: 3分


脂肪燃焼に有効な有酸素運動 ― 目標心拍数を活用しよう
■ 脂肪燃焼と運動強度の関係 「脂肪を燃やすには長時間の有酸素運動が良い」と言われますが、実は 運動強度によってエネルギー源の割合(糖質 vs 脂質)が変化 します。研究では、 中強度(最大心拍数の50〜70%)の運動で脂肪酸利用が最も高まる...

青柳貴宏
9月12日読了時間: 2分


ダイエットに有酸素運動は必要か?
■ 「筋トレだけで痩せられる?」という疑問 近年は「ダイエットには筋トレだけで十分、有酸素は不要」という意見も聞かれます。確かに筋トレは筋量を維持・増やし、基礎代謝を守る上で不可欠です。では、有酸素運動は本当に要らないのでしょうか? ■ 有酸素運動の確かな役割 1....

青柳貴宏
9月12日読了時間: 3分


追い込みは必要か? ― 筋肥大とダイエットの視点から考える
パーソナルジムなどを利用する理由の一つとして、「追い込んでくれる」点を挙げる方も多いかもしれません。今回は筋トレの追い込みについて考えてみたいと思います。 ■ 追い込み(フォーストレップ)とは? 「追い込み」とは、限界まで反復した後に補助者のサポートを受けてさらに数回追加す...

青柳貴宏
9月11日読了時間: 2分


時間栄養学とダイエット ― 体内時計を味方につける食べ方
■ 時間栄養学とは? 「時間栄養学(Chrono-nutrition)」は、 何を食べるかだけでなく、いつ食べるかが健康や体重管理に大きく関わる とする学問です。人間には「 概日リズム(サーカディアンリズム) 」という体内時計があり、...

青柳貴宏
9月5日読了時間: 2分


子どもの足育と運動能力 ― 薄底シューズをシーンに応じて取り入れるメリット
今は子どもの時から、かなりの 厚底タイプのランニングシューズ が一般的となってきています。クッション性が高く、長時間履いても疲れにくい「安心感」があり、怪我予防のイメージも強いのですが、スポーツ能力向上との関係で考えてみたいと思います。 ■ 足裏感覚は「運動神経の入り口」...

青柳貴宏
9月2日読了時間: 2分
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