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「ローテーション」と「アンチローテーション」

野球のバットスイングは、全身の力を効率的にボールへ伝える高度な運動です。その中心にあるのが「ローテーション(回旋)」と、それに拮抗する「アンチローテーション(抗回旋)」です。どちらも一流打者のスイングに欠かせない要素ですが、混同されやすいため整理してみましょう。


■ローテーション:スイングを加速させる原動力

バットを振る際に体を回転させる動きを生み出すのが「ローテーション筋群」です。

  • 外腹斜筋(反対側)

  • 内腹斜筋(同側)

  • 腹直筋の外側部

  • 広背筋

  • 脊柱起立筋群

右打者がスイングするときには、右外腹斜筋と左内腹斜筋が強力に働き、体幹の回転トルクを作り出します。この回転力が、バットスピードの源泉です。

研究的にも、野球打者は体幹回旋の筋力がスイング速度や飛距離と関連することが報告されています(Szymanski et al., 2007)。


■アンチローテーション:パワーを逃さない制御力

一方で、力強く振るだけではボールに正確に力を伝えられません。スイング中に体がブレてしまえば、ミート率もパワー伝達効率も低下します。ここで重要になるのが「アンチローテーション筋群」です。

  • 腹横筋(体幹の安定化コルセット)

  • 内・外腹斜筋(反対側でブレーキ役)

  • 多裂筋(脊椎の細かな制御)

  • 中臀筋・大臀筋(骨盤の安定)

  • 広背筋の反対側

これらが「不必要な回旋を抑制」し、スイングの軸を安定させます。特に軸足側の股関節と体幹深部の筋群が、インパクト時に余計な回転を止める役割を果たします。

近年のトレーニング研究でも、アンチローテーションを含む体幹安定化エクササイズはパフォーマンス向上と障害予防の双方に有効であることが示されています(Behm et al., 2010)。


■両者のバランスがスイング精度を高める

実際の打撃動作は、以下のように「ローテーション」と「アンチローテーション」の切り替えの連続です。

  • 溜めの局面 → アンチローテーション(捻りに抵抗して安定を保つ)

  • 回転加速局面 → ローテーション(外腹斜筋+内腹斜筋が爆発的に働く)

  • インパクト → アンチローテーション(体幹のブレを抑えてパワーを伝達)

つまり、強く回す力不要な回転を抑える力が同時に鍛えられてこそ、再現性の高いスイングが可能になります。


■実践的トレーニング例

  • ローテーション強化 ロシアンツイスト、ケーブルウッドチョップ

  • アンチローテーション強化 パロフプレス、ケーブルホールド、デッドバグ

これらを組み合わせることで、「バットスピード」と「スイングの安定性」の両立が期待できます。


■まとめ

野球のバッティングにおいて、ローテーションとアンチローテーションは対立する概念ではなく、むしろ補完関係にあります。強く振る力と、ぶれずに止める力。その両輪をバランスよく鍛えることが、打球の飛距離と確実性を高めるカギになるのです。


📚参考文献

  • Szymanski, D. J., et al. (2007). Effect of twelve weeks of medicine ball training on high school baseball players. J Strength Cond Res.

  • Behm, D. G., et al. (2010). Trunk muscle electromyographic activity with unstable and unilateral exercises. J Strength Cond Res.


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