「速さ」と「早さ」──現代野球に求められるスイング
- 青柳貴宏

- 11月6日
- 読了時間: 3分
近年の野球では、投手の平均球速が年々上昇し、打者はより短い時間でボールを見極め、反応しなければならなくなっています。
この環境の変化の中で、打撃動作における「速さ」と「早さ」を理解してスイングを作っていくことは、育成年代を含むすべての打者にとって重要なテーマになるのではないかと感じています。
■ 「速さ」と「早さ」の違い
日本語の「速さ(はやさ)」と「早さ(はやさ)」は似ていますが、意味は異なります。
言葉 | 英語 | 意味 |
速さ | speed / velocity | 動作そのもののスピード。物理的な速さ。 |
早さ | quickness / promptness | タイミングや反応の速さ。行動の早さ。 |
バッティングで言えば、
「速さ」=スイングスピード(バットスピード)
「早さ」=スイングを開始してからインパクトに至るまでの“立ち上がり速度(クイックネス)”
どちらも大切ですが、現代野球では「早さ=クイックネス」こそが勝負を分ける能力であると考えられます。
■ 球速上昇がもたらした「判断時間の短縮」
投手の平均球速はここ20年で顕著に上がり、
MLBでは平均94mph(約151km/h)
NPBでも平均145km/h前後
となっています。ホームベースまで約0.45秒。打者に残された判断時間は、わずか0.15秒程度しかありません。
この短時間で「球種判断 → スイング開始 → インパクト調整」を行うためには、スイングを“速く”するだけでなく、“短く間に合わせる”ことが求められます。つまり、「バットスピードの最大値」よりも「スイング動作の立ち上がり速度」が重要なのです。
■ よくある誤解①:「バットスピードが乗る前で打つべき」
確かに、理論上バットスピードはスイングの後半で最大になります。そのため「前(投手側)で捉えるほど強い打球が打てる」という考え方が広まりました。
しかし、これはクイックネスを無視した“強さ優先の発想”です。現代の高速化した投球環境では、前で打とうとすればするほどタイミングの猶予が減り、変化球への対応力も落ちてしまいます。
理想は「最短時間で最大スピードに到達し、適正な打点でミートする」こと。つまり、“前で強く”ではなく、“早く完結する”スイングになります。
■ よくある誤解②:「体格に恵まれた人向けのスイング」
クイックネス(quickness)は「筋力の大きさ」ではなく、筋出力の立ち上がり速度(Rate of Force Development, RFD)と神経系の同期性によって決まり、体格差に関係なく鍛えられる能力です。小柄な選手でも、
予備緊張(pre-tension)を作る
マッスルスラック(muscle slack)を減らす
反応ドリルで動作の立ち上がりを速める
といったアプローチで、十分に向上が見込めます。
■ 現代野球における“速く振る”の再定義
現代の打撃では、「速く振る(speed)」よりも「早く反応し、早く完結する(quickness)」が重要度をましており「前で強く」ではなく、「短時間で間に合う」スイングを行う。そして、それはトップレベルに限った話でなく、育成年代から意識すべき基礎能力であると言えるのではないでそしょうか。
■ まとめ
「速く振る」ことを追いかける前に、「速く反応し、早く完結できる」スイングをつくる。 この“速さと早さの両立”こそが、現代野球における本当の打撃力向上のカギであると考えます。




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