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オーバーカミング・アイソメトリックスとは?

■ 定義

オーバーカミング・アイソメトリックスとは、「動かせない対象に対して“全力で押す/引く”ような形で行う等尺性収縮(アイソメトリック)」の一種です。

例:

  • 壁を全力で押す

  • パワーラックのセーフティバーを全力で引き上げる

  • 地面に固定したチェーンやベルトを引っ張る

動かない対象に対して最大筋力を発揮することで、神経系の活性化と最大筋力発揮の効率を高めることを目的としています。


■ 筋収縮の基本3様式

  1. コンセントリック収縮(短縮性収縮)筋肉が縮みながら力を発揮する。例:ダンベルを持ち上げる。

  2. エキセントリック収縮(伸張性収縮)筋肉が伸ばされながら力を発揮する。例:ダンベルをゆっくり下ろす。筋損傷や筋肥大効果が大きい。

  3. アイソメトリック収縮(等尺性収縮)筋の長さを変えずに力を発揮する。例:壁を押しても動かないときの筋の力。

このうち、オーバーカミング・アイソメトリックスは「動かない対象に最大努力で力を発揮する」等尺性トレーニングです。


■ オーバーカミング・アイソメトリックスの特徴

  • 神経系の強化

    最大努力で収縮し続けることで、中枢神経が高強度動作に適応。爆発的パワー発揮につながる(Lum & Barbosa, 2019)。

  • 安全性が高い

    バーベルを実際に動かさず固定された状態で力を出すため、可動域での怪我リスクが少ない。

  • スティッキングポイント克服

    ベンチプレスやスクワットで「止まりやすい位置」に合わせて実施することで、特定の角度の筋力向上を狙える。

  • 短時間でも強度が高い

    数秒の全力発揮を数セットで十分効果が期待できる。時間効率も良い。


■ 野球動作における筋収縮の役割とオーバーカミング・アイソメトリックトレーニングの活用例

1. ピッチング

  • ワインドアップ〜コッキング:肩・股関節周りの筋がエキセントリックに伸張し、エネルギーを蓄える。

  • 加速期:大胸筋・広背筋・下肢がコンセントリック収縮で爆発的に動作。

  • リリース直後:肩周囲や回旋筋群がエキセントリックに働き、減速をコントロール。

    👉 オーバーカミング・アイソメトリックスは「リリース直前の最大発揮」に似た神経刺激を与えることができる。

2. バッティング

  • トップ〜振り出し:後脚・体幹でエキセントリックに粘りを作る。

  • スイング加速:下肢から体幹、上肢へとコンセントリック連鎖。

  • インパクト:アイソメトリック要素(バットを止めず、押し込みながらも支える力)が大きい。

    👉 オーバーカミング・アイソメトリックスは「インパクト局面の押し込み」「体幹のブロック動作」に通じる。


■ 実践例(野球選手向け)

  • パワーラックでのプレス/スクワット→ インパクトや踏み込み動作を模して、特定の角度で5秒全力。

  • 壁押しドリル→ 下半身から体幹を連動させ、全身で力を伝える感覚を養う。

  • ケーブルやベルトでの回旋固定引き→ 回旋系筋群にアイソメトリックな最大努力を課す。


■ 注意点

  • 常に最大努力を要求するため、神経疲労は大きい。頻度を上げすぎると逆効果。

  • 「動作のスピード」「筋肥大」そのものへの直接効果は限定的。基本は爆発力・最大筋力の補助手段として活用。

  • 初心者よりも、ある程度の筋力トレーニング経験を積んだアスリート向け。


■ まとめ

  • オーバーカミング・アイソメトリックス=動かない対象に全力で力を出すトレーニング

  • 神経系強化やスティッキングポイント克服に効果的。

  • 単独で使うより、通常の筋トレ+補助的に組み合わせるのが最適。

「重りを動かす力」ではなく「最大限の力を引き出す神経スイッチ」を入れることがこのトレーニングの本質です。


📚 参考文献

  • Lum D, Barbosa TM. Isometric strength training benefits on dynamic performance: A systematic review and meta-analysis. J Strength Cond Res. 2019.

  • Behm DG, Sale DG. Intended rather than actual movement velocity determines velocity-specific training response. J Appl Physiol. 1993.


  • Folland JP, et al. Isometric training and muscle size and strength gains: The influence of muscle length and joint angle. Eur J Appl Physiol. 2005.

  • Fleisig GS, et al. Kinetics of baseball pitching with implications about injury mechanisms. Am J Sports Med. 1995.

  • Welch CM, et al. Hitting a baseball: A biomechanical description. J Appl Biomech. 1995.

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