球速を決める要因と、科学的根拠にもとづくトレーニング設計
- 青柳貴宏

- 8月21日
- 読了時間: 5分
更新日:8月24日
1) 身体の使い方
球速に影響する大きな要因は 下半身から体幹、上肢への運動連鎖(キネティックチェーン) にあります。
ヒップ・ショルダーセパレーション(骨盤―胸郭の捻れ)前脚着地時の骨盤と胸郭の分離が大きいほど体幹回旋速度が高く、結果として球速に好影響を与えることが示されています。PubMedPMC
体幹・骨盤の回転スピード骨盤回転→体幹回転の連鎖(キネティックチェーン)が球速に関与します。ResearchGate
ストライド(歩幅)とリード脚の膝伸展=“ブロック”ストライド長や着地時の膝角度、投球中のリード膝の伸展は球速と関連します。リード脚がしっかり止まる(ブロックする)ほど上肢に速度が伝わりやすい傾向です。PMC+1
回旋タイミング体幹の早すぎる回旋は肩内旋・肘外反トルクの増加と関連があり、効率や傷害リスクの観点で望ましくない可能性があります。J Shoulder Elbow
2) 体力要素
3) 8〜12週のプログラム
A. 準備期(2–3週)—可動性と基礎筋力
目的:セパレーションを作るための胸椎伸展・回旋、投球側股関節内旋、踏み込み側股関節外旋の改善/基本の押す・引く・ヒンジ・スクワットの型づくり。
モビリティ(毎回5–8分):オープンブック、90/90ヒップIR/ER、胸椎エクステンション on フォームローラー
基礎筋力(週2–3):
ヒンジ:ルーマニアンデットリフト 3セット×6~8回
片脚:スプリットスクワット 3セット×6–8回/脚
プル:チンアップ or ラットプル 3セット×6–8回
プッシュ:ダンベルベンチ 3セット×6–8回
低強度メディボール(MB)投げ:ローテーショナルMBスロー 5セット×4回/側(スピード最優先)
B. 伸長期(3–4週)—筋力→パワー橋渡し
目的:前脚ブロック力と回旋加速。
C. 仕上げ期(2–3週)—高速度化
目的:最高速度を引き出す。
パワー優先(週2):ハードなMBローテーション 8×2/側、ハードル連続ジャンプ、スプリント(10–30m×6~8)
筋力維持(週1–2):全身 3×3~5(高重量・低回数)
投球(週3):1回はガン測定の高意図セッション、他2回は制御+回復重視。
フィニッシュドリル:ストライド+ブロック、ヒップリード→胸郭遅らせの時間差作り。PubMed
TIP:モニタリング週1の球速、ラテラルジャンプ距離、MB投げ速度を記録して、伸び悩み時は「下肢パワー不足か、回旋のタイミング問題か」を切り分けます。PubMed+1
4) ウェイテッドボール(加重球)の是非
6週間の加重球プログラムで球速は上がる一方、肩外旋ROMの増加(後方組織ストレスの示唆)や**上肢傷害増加(約25%)**が報告されています。特に高校生以上でも注意が必要です。PMCijspt.org
実施するなら:事前ROM評価(肩外旋・肘伸展可/胸椎回旋・股関節IR)、段階的ボリューム、高意図の頻度を限定、疼痛=即中止。未成年・既往ありは基本非推奨。概念理解にはこちらも参考。Mike Reinoldサイエンスダイレクト
5) よくある技術的ミスと修正キュー
体幹の早回し→「前脚が完全接地してから回す」「骨盤→胸郭の順」J Shoulder Elbow
ブロック不十分→「着地後に膝を伸ばして止める」「つま先〜膝〜股のラインを安定」PMC
ストライドが短い/長い→通常比±10%で球速が変動、個体最適を探索。SABR
参考(主要エビデンス)
骨盤・体幹回転速度と球速。ResearchGate
ストライド/リード膝伸展と球速。PMC+1
体幹早回しと肩肘トルク。J Shoulder Elbow
MB投げの相関・活用。PubMed
まとめ
■ 球速を決める3つの要因
ヒップ・ショルダーセパレーション 骨盤と胸郭の捻れ(分離)が大きいほど、体幹回旋速度が上がり、球速に直結します。
リード脚でのブロック 踏み込んだ脚をしっかり伸ばして止めることで、体の回転エネルギーが効率的に上半身へ伝わります。
回旋系パワーの発揮 ローテーショナル・メディシンボールスローの速度は投球速度と関連があり、回旋パワーを鍛えるのに有効です。
■ トレーニング内容
モビリティ(胸椎・股関節):セパレーションを大きくするために柔軟性を確保
下肢筋力・パワー:スプリットスクワット、ラテラルジャンプ
回旋系パワー:ローテーショナルMBスロー(軽い重量でスピード最優先)





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