弾性要素と収縮要素
- 青柳貴宏

- 10月17日
- 読了時間: 3分
■筋肉の力は「二つの要素」で生まれる
筋肉が力を発揮するとき、その内部では
収縮要素(Contractile Element:CE)
弾性要素(Elastic Components:SEC・PEC)という二つの仕組みが協調して働いています。
◉収縮要素(Contractile Element)
筋原線維(アクチンとミオシン)の滑走によるいわゆる筋収縮そのもの。神経刺激によってカルシウムが放出され、アクチンとミオシンが結合して力を生み出す。主にコンセントリック収縮で強く働きます。
◉弾性要素(Elastic Components)
筋腱複合体に含まれる弾性組織。
SEC(Series Elastic Component):筋繊維と直列に存在(腱・筋節の弾性部分)
PEC(Parallel Elastic Component):筋膜や結合組織など、筋繊維と並行に存在これらは「ゴム」のように伸び縮みし、一時的にエネルギーを貯蔵して解放することで力を増幅します。
■弾性要素の寄与はどのくらい大きいのか?
実際の運動では、収縮要素よりも弾性要素が多くの力を担っている場面もあることが報告されています。
例えば、伸張-短縮サイクル(Stretch–Shortening Cycle, SSC)では、筋が一度「伸ばされる(エキセントリック)」ことで、弾性要素にエネルギーが蓄えられ、その後の「短縮(コンセントリック)」で再利用されます。
Cavagna et al.(1968)は、SSCによる力発揮のうち約50%が弾性エネルギーの再利用によるものと報告。
Komi & Bosco(1978)も、ジャンプ動作において弾性要素+神経反射の寄与が筋出力の過半を占めると述べています。
つまり、筋力=収縮力+弾性エネルギーの総和であり、高強度・高速度の動作では「収縮よりも弾性の働きが主役」になるケースも少なくありません。
■野球・陸上競技などにおける弾性の役割
野球の投球やスプリント動作では、
肩・股関節周辺の筋群がエキセントリックに伸張
弾性要素にエネルギーを蓄える
直後のコンセントリック局面で蓄えた力を一気に解放
この連携がスピード・パワー発揮の核となります。特に前鋸筋・腸腰筋・ハムストリングスなどの二関節筋は、収縮要素と弾性要素が高次に連携する構造を持ち、しなやかで爆発的な動きの原動力です。
■弾性要素を活かせない場合
動作テンポが遅すぎる
常に力み(随意的収縮)で動いてしまう
これらの状態では、弾性エネルギーの蓄積・解放が行われず、筋肉が常にゼロから頑張る状態になります。その結果、効率が悪く、疲労しやすく、スピードも出ません。
■トレーニングへの応用
SSCを意識したジャンプ・投動作トレーニング
例:ドロップジャンプ、メディシンボールスロー
筋膜・腱の弾性を高める運動
例:リズミカルなプライオメトリック、軽負荷での反復動作
■まとめ
筋力発揮は「収縮要素+弾性要素」の協調によって成立する。
高速・爆発的動作では、弾性要素の寄与は大きい。
伸張反射やSSCを使いこなすことで、より効率的でしなやかな動作が可能になる。
📚 参考文献
Cavagna, G. A., Saibene, F. P., & Margaria, R. (1968). Mechanical work in running. J Appl Physiol, 19(2), 249–256.
Komi, P. V., & Bosco, C. (1978). Utilization of stored elastic energy in leg extensor muscles by men and women. Med Sci Sports, 10(4), 261–265.
Alexander, R. M. (1997). Elastic mechanisms in animal movement. Cambridge University Press.
Bosco, C., & Komi, P. V. (1980). Influence of aging on the mechanical behavior of leg extensor muscles. Eur J Appl Physiol, 45(3), 209–219.





コメント