爆発的パフォーマンスを生む鍵 ―予備緊張・マッスルスラック・RFD・RSIの関係―
- 青柳貴宏

- 10月16日
- 読了時間: 3分
■力は「出す前」から始まっている
どんなスポーツ動作も、実際に動き出す前からすでに“勝負”は始まっています。投球、ジャンプ、スプリント、スイングなどのすべての爆発的な動作は、力を生み出す準備段階で結果が決まります。
この準備段階を理解するキーワードが、予備緊張(Pre-tension)、マッスルスラック(Muscle Slack)、そしてそれによって生まれるRFD(Rate of Force Development)とRSI(Reactive Strength Index)です。
■マッスルスラック:力を出す前に存在する“たるみ”
「マッスルスラック」とは、筋肉や腱に存在する“たるみ”や“遊び”のこと。
輪ゴムを弾く前に少し緩んでいると、引っ張り始めてから反応が遅れるのと同じで、筋肉もたるんでいる状態では力がすぐに伝わりません。
この「たるみ」を減らすことが、力発揮の速さ動作の効率を高めます。
■予備緊張:たるみを消す“張りの準備”
予備緊張とは、動作前に筋肉を軽く緊張させておくこと。これによってマッスルスラックを消し、筋がすぐに力を伝えられる状態を作ります。
投手が投げる直前、全身にわずかな張りを持たせる瞬間
スプリンターがスタート前に身体を沈め、静止している状態
バッターがスイング直前に作る“間(ま)”
これらはいずれも「予備緊張」によって身体を“反応できる状態”に整えています。
■RFD:力の立ち上がり速度(出力スピード)
RFD(Rate of Force Development)は、どれだけ速く力を出せるかを示す指標。単純に強いだけではなく、速く力を立ち上げられるかが重要です。
RFDは、
神経系の動員速度
筋線維タイプ(速筋の発火タイミング)
マッスルスラックの少なさ(力伝達の速さ)
によって決まりるとされています。
RFDを高めるトレーニング例:
オリンピックリフト(クリーン・スナッチ)
スピードスクワット・ベンチスロー
軽負荷での高速動作トレーニング
予備緊張が整っているほど、RFDはより効率的に発揮されます。
■RSI:反応筋力指数(反発の効率、切り返しの速さ)
RSI(Reactive Strength Index)は、接地時間と跳躍高の比率で測られる指標で、地面反力を“どれだけ速く効率的に返せるか”を示します。
RSI = 跳躍高 ÷ 接地時間
短い接地で高く跳べる選手ほどRSIは高くなります。つまり、力をためる→返すの流れ(SSC)が上手いということになります。
RSIはRFDと異なり、単発の出力スピードではなく“連続的な切り返し能力”を評価します。
RSIを高めるトレーニング例:
ドロップジャンプ(台からの落下→反発)
リバウンドジャンプ
片脚ホッピング
■関係まとめ
フェーズ | 概念 | 意味・役割 |
準備段階 | マッスルスラック | 筋のたるみ。力伝達のロスを生む。 |
準備段階 | 予備緊張 | たるみをなくす。反応準備を整える。 |
力発揮段階 | RFD | 力をどれだけ速く出せるか(神経・筋系の出力スピード)。 |
反応段階 | RSI | 力をどれだけ効率よく返せるか(反発・SSCの効率)。 |
この4つは直線的な順序というより、連続的かつ相互に影響し合う関係です。
予備緊張でマッスルスラックを減らせば、RFDが高まりやすくなる。
RFDが高まれば、反発効率(RSI)も良くなる。
RSIが高い動作は、次の動作への予備緊張を自然に生み出す。
■トレーニングへの応用:4要素を意識して鍛える
目的 | 鍛える要素 | トレーニング例 |
動き出しの速さ | 予備緊張・RFD | アイソメトリックプレス、スピードリフト |
切り返しの速さ | RSI | ドロップジャンプ、ホップ系 |
力伝達の無駄削減 | マッスルスラック | 軽負荷ジャンプ、テンション意識ドリル |
総合的パワー | 全体連携 | オリンピックリフト、SSC系ドリル |
■まとめ:「力を出せる準備」が大切
マッスルスラック:たるみを知る
予備緊張:そのたるみを消す
RFD:力を速く出す
RSI:その力を無駄なく返す
筋肉は動き出す前からすでに動いていて準備をしています。力を出す前の準備こそが瞬発力の正体です。





コメント